ニーハオ安徽 2002/12 発行 第17号 P1 P2 P3 P4 P5 P6


安徽省のケナフボード工場始動

高知大学農学部森林科学科  教授 鮫島 一彦


 安徽省はケナフの中国一の大生産地である。近年、ケナフの加工工場は斜陽産業の1つとされてきたが、最近では大きく発展する可能性を秘めた新しい産業として見直され始めている。ケナフ栽培による地球環境改善、二酸化炭素吸収による地球温暖化防止の方策の1つとしても期待されているのである。2002年3月11日から17日の訪中の際、安徽省を訪れ、日本と中国の協力関係によって始動をはじめたケナフボード加工工場を見学する機会を得たので紹介させていただこうと思う。




ケナフ紡績工場

【ケナフとは】

 ケナフとは繊維植物で、四千年前のエジプトでも栽培されていたとされる西アフリカ原産の植物である。沖縄の象徴である真っ赤なハイビスカスや、食用のオクラの花、韓国の国花ムクゲの花と同様な5花弁の美しい花をつける。色は淡い黄色を帯びた白色で、ホワイトハイビスカスとも呼ばれている。

 ケナフはアジアの多くの国々(中国、インド、インドネシア、ベトナムなど)で大量に栽培、加工され、多くの先進工業国に輸出されてきた。大袈裟に言えば木材と同様、人類の発展に大いに貢献してきた繊維植物とも言える。アジアを中心とした生産国の現金収入源としてかっては非常に重要な地位を占めてきた。その伝統的な用途は、ケナフの強靱な靭皮繊維の性質を生かしたロープ、麻袋、キャンバスなどであるが、最近では生活様式の変化や、化学合成繊維などの進出などで、その市場を奪われ大幅に生産量が減少しきている。


上海外灘の眩しいイルミネーション


合肥市にて 左から程舟先生、宮地氏、倪(Ni)副総経理


蕪湖市「中天印染」の展示


蕪湖市中心の湖

【安徽省のケナフ】

 生産量はかつてにくらべ大幅に減少、加工工場の多くが閉鎖あるいは工場の一部で操業を続けている状況だ。しかし、最近ではケナフの素晴しいバイオマス生産量(二酸化炭素固定量が大きい)、生育特性(農薬、肥料の要求量が他の栽培作物より少ない、栽培地域が広い、地味を選ばないなど)が再評価され、地球環境改善植物としての新しいケナフの用途開発が世界各地で、特にアメリカ、日本など先進工業国でつぎつぎに進められて来ている。安徽省でもその成果の一つが生かされようとしている。ケナフボード工場の操業開始である。

 既に新聞報道でご存知の方も多いだろうが、2002年8月20日松下電工がケナフを原料とした住宅用建材の発売を21日から開始すると発表した。ケナフの繊維をパネルに加工、住宅壁の下地部材に利用する。従来の合板製品に比べ2倍の耐震強度を確保しながら、厚みは半分ですむ。松下電工はさらに自動車の天井板、家具用ボードにも用途を広げ、2005年には100億円の売り上げを目指す。また、マレーシアでも同様な事業を展開する予定だ。

【高知大学とケナフ】

 高知大学では12年前からケナフの栽培と加工の研究開発を進めている。その契機は当時の環境庁に設置された地球温暖化防止策を検討するケナフ委員会(通称)の委員として、鮫島が中国、タイなどを調査したことに始まる。これは製紙産業が基幹産業である高知でも原料としてケナフパルプを供給することは重要と考えたからだった。しかし、木材など既に用いられている原料の供給体制に新しい体制を加えることは容易ではなかった。事情はアメリカ、オーストラリア、イタリアなど多くの先進工業国の研究機関の研究者にとっても同じだった。このためケナフの特徴を生かした多くのパルプ以外の用途が開発されてきた。その一つが今回のケナフボードの開発だ。

 高知大学における新しいケナフの用途開発には多くの学生、特に中国、バングラディッシュ、インドネシア、タイなどの発展途上国からの留学生が携わっている。その結果、ケナフ和紙、壁紙、ケナフ菌床シイタケなど実用化にこぎつけたものもいくつかある。また、基礎的な研究報告も数多く、国際会議などでも発表し、日本の高知をアピールし続けている。現在では畜産、集落排水処理などを加えた循環型の農業生産体制構築のためにケナフを利用することについての研究を始めている。成功すれば世界の農村で利用できるものになるだろう。

【今回の中国訪問】

 中国には8年振り4回目の訪問で、今回どのように変化しているか非常に楽しみだった。安徽省は今回がはじめての訪問で、全行程、上海復旦大学の程舟先生が案内してくれた。現在高知ケナフ普及会代表で、もと高知県紙産業技術センター部長として高知大学のケナフ研究開発にずっと協力していただいている宮地亀好氏も同行して下さった。程舟先生は高知大学で学位を取得、昨年中国に帰ってケナフの研究を続けている。ケナフの栽培から加工まで中国においては若いながら、非常に博識な第一級の研究者である。

 まず驚いたのは上海の発展。モノレールは、パリの地下鉄を思い出させ、下界の交通渋滞を尻目に便利になっていた。外灘、浦東地区の夜のイルミネーションは眩しいほどだ。復旦大学は大きく、学生も多様。夜の「ケナフ講義」を英語で急遽開講したが熱心に聞いてくれた。

 浙江省杭州へははじめての列車の旅をした。程舟先生の恩師、ケナフ栽培の権威、梅偵女史とも再会した。ケナフ壁紙などのサンプルも入手。「中国古代製紙印刷文化村」では竹紙の製造法などの展示などを見学した。「西湖」では梅先生などと手漕ぎの遊覧船に乗った。すばらしいながめだった。安徽省蕪湖には列車で向かった。外は一面菜の花畑。

 蕪湖市では、愛媛県川之江の三木特種製紙の現地工場「蕪湖三木」と高知県土佐山田の現地工場「蕪高刃具」、さらに天然繊維の染色工場「中天印染」、「蕪湖書画院」などを見学した。長江大橋を車で渡って高河では「安徽三木」の工場と「高森製紙集団」のワラパルプ工場を見学した。合肥市舒城で「ケナフボード工場」を見学してから安徽三木の倪副総経理の案内で合肥でショッピングをした。

【合肥市舒城(安徽省)でのケナフボード工場見学】

 松下電工の奥平(おくだいら)氏の案内でケナフボード工場とケナフ紡績工場を見学した。ケナフボード工場はかって中国一であったケナフ紡績工場の中にある。現在規模を縮小しながらもケナフ、ジュートの麻袋、麻縄、さらに綿花のジーンズ用布も製造している。ボードは靭皮のみで作られた薄板が基本で厚さは自由に変えることがでる。高強度で均一な大面積の薄板(0.5mmまでの薄物が可能)が得られるので、今後資源枯渇が心配される熱帯材の代替ボードなどとして無限の可能性を秘めている。

 経済発展のめざましい中国での熱帯材の使用量が増大すると大きな問題になることから、中国国内での利用拡大も非常に意味のあることだ。紡績工場の責任者の説明ではかってケナフの靭皮は100万トン生産されていたが、現在では10万トン、ケナフ靭皮ボードの生産が拡大されれば再度栽培面積を拡大することは容易とのこと。これまでケナフの大量生産は紙パルプあるいはケナフ芯部のボードを中心に考えていたが、ケナフ靭皮ボードにも大きな可能性があることを知ったことは今回の最大の収穫であった。世界各地でケナフ靭皮ボードを利用した各種の工場ができれば、現地での経済効果、熱帯林保全の効果も大いに期待できるだろう。

【後の展望】

 中国は古代からのケナフ栽培の先進国である。日本はケナフ加工技術の先端技術を獲得しつつある。両国が今後もケナフの栽培、加工と利用に協力することは、地球全体のためにも有意義なことだ。舒城のケナフボードはケナフの靭皮部の繊維のみを利用した画期的なボードである。しかし、ケナフの靭皮部は全体重量の30〜40%に過ぎない。芯部は木質で、各種の用途に利用できる。安徽省でも芯部を含めたボードの生産、あるいはその他の用途開発が必要だろう。今後さらに日中協力してケナフの栽培と加工のさらなる進展を図りたいと思う。

 現在、黒龍江省や雲南省では年産10万トン級のケナフ全幹パルプ工場の建設計画が進んでいる。これはケナフの全体を利用するので二酸化炭素吸収固定の方式として大いに注目される。森林資源の少ない中国では、大いに期待すべきものだろう。中国では、今後大幅な紙需要が予測されているが、木材パルプのみでは対応できないのではないだろうか。安徽省でも同様な計画が進むことを望んでいる。



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