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Summer No.22

オーストラリアで子供たちに日本語指導

吉本愛子さん(42)は、オーストラリアのゴールドコーストにある私立学校で、1年5か月にわたって3歳から12歳までの子供たちに日本語を教え、この程帰高されました。「Aiko」の愛称で親しまれ、校長先生からは「我が校の名士」だと讃えられた活躍ぶり、かわいい子供たちとの楽しい授業の様子、また教師の立場から見たオーストラリアの教育現場など熱く語っていただきましたので、ご紹介します。

オーストラリアメモ

面積:
人口:
公用語:
宗教:

771万K
1776万人m
英語
主にキリスト教


毎回授業は、発音練習でスタート


オーストラリアに日本語教師として行こうと思った動機は?

 13年間、中学校で国語の教師をしていて、教師としてのこれからの自分に恐怖を感じたんです。教師を見ていると、二種類に分かれると思うんですね。一つはマンネリ化している教師。もう一つは生徒のために本気でやっている教師。「私はどっちかな」と自分に聞いてみた時、「マンネリ化かな…」という答えが出たのです。「これは危ない」と思いましたね。「このシステムの中にいつまでもいたら、きっと私はマンネリ化してしまう」と。
 ちょうどこの時期、日本語を教えるということに興味を持ち始め、実際にボランティアで教え始めたのです。そうした中で新しいスタートを切るのは今しかないと思い、オーストラリア行きを決意しました。 


今日は赤の日。赤い物を見つけましょう。


周りの反応はどうでしたか?

 みんな驚きましたね。「愛子さん、38で辞めるの?」って。でも、私を知っている周りの教師はみんな言いましたね。できるなら私もやってみたいと。
 教育委員会には、「勉強したいことがあるから2年間程休みをいただきたい。その間の保証は何もいらないので」とお願いしたのですが、「前例がないから」と断わられました。「辞めて行くしかないですね」と。ただ、教育委員会の若い人の中には、そういうことをやらせてみてもいいのでは、との声はありましたが。

実際に子供たちに教えてみてどうでしたか。

 オーストラリアでは先生たちに「日本の学校は静かなんだろう?」「生徒は先生を尊敬しているんだろう?」「こんなもんじゃないんだろう?」とよく質問されました。その度に私は「何、言ってるの!私がこの学校でどれだけ感動したことか!小さい子供がビシッと集中して聴ける。質問はありませんか、と言ったらワーッと手を挙げる。日本の子供たちが見習うべき点がいっぱいあるわよ。」といつも答えていました。
 さらに感心したのは、子供たちがお互いを大事にできるということ。カトリックの影響もあって、「人のためにしてあげることがいいこと」という考えが根付いているのです。私が授業の見学をしていると、先生に指名された生徒が私の横に座ってその子のお気に入りの本を読んでくれたり、生徒が先生の用事をかってでたり。日本だったら、「授業中になんてこと」と怒られそうですが、オーストラリアでは保護者が、「うちの子がそんなことをさせてもらって」と逆に喜ぶんです。大人も子供も、人のために何かやって喜ばれることがすごくうれしいんですね。
 パプアニューギニアで津波があった時には、上級生の生徒が品物を学校に持ち込んで、募金を集めようとバザーを開いていました。毎年クリスマスには、一人が一つプレゼントを持ってきて、恵まれない人たちにプレゼントしています。
 保護者の方もボランティアで協力してくれています。例えば、読む力が劣っている生徒はピックアップされて、授業中に15分ほど教室の外で読む練習をさせられるのですが、必ず誰か保護者の方が来てくれて、それを聞いてあげるんです。その他にも、教会でのバザー、売店や食堂でも保護者の協力が見られます。このような環境で育つからこそ、子供たちのボランティア精神が育つんですね。

どういった授業をされましたか。

 低学年に人気があったのは、紙芝居です。日本の昔話を題材に自分で紙芝居を作って読んであげたり、その紙芝居の登場人物を折り紙で作ったりしました。折り紙だったら「おすもうさんゲーム」も子供たちは好きでしたね。「福笑い」もとても人気があって、初めは、「イアー」「マウス」と英語で言うんですが、慣れてくると、「みみ」「くち」と日本語で言い始めるんです。目隠しをはずしてヘンテコリンな顔を見ては、みんな大喜びでした。
 上級生のクラスでは、自己紹介の仕方を教えたり、正座を体験させたりしました。 高知県の北陵中学校から送られてきた学校紹介のビデオも見せました。これには教師も生徒も驚いていましたね。まず、掃除の時間。雑巾を持った女生徒が「タッタッター」と床を拭いている姿に、「何をやっているんだ!?」と、みんなびっくりしていました。オーストラリアでは、生徒は教室のゴミ拾いはしますが、清掃の方々がいるので掃除の時間はないんです。次にお弁当の豪華さ。お弁当の中身を見た瞬間、サンドウィッチに果物だけのお弁当に慣れている子供たちからは「おぉーッ」と歓声があがりました。

子供たちの様子はどうですか。

 実に伸び伸びとしています。授業も楽しいんです。テキストなんて絵がたくさんあって思わず私までもしたくなってきます。知識の量は日本の3分の2でも、することの楽しさは倍の倍ですよ。
 また、みんな発表するのがとても上手ですね。小さい時から、自分の発表や相手の発表を大事にすることを教えられているので、質問や発表の仕方がきちんとできているのです。庭で拾ったみの虫の殻でさえ、「これはなぁ」という感じで堂々と自信たっぷりに発表してますから。それを聞いている他の生徒もその発表っぷりに「おぉーッ」と感心しているのです。
 日本では完璧が求められるでしょう。でもオーストラリアでは、できる範囲内のことを一生懸命やることのほうが重視されるので、やっていて楽しいんです。 みんなプレッシャーを感じずに、本当に伸び伸びやっていますよ。

日本とオーストラリアの学校の違いで印象的だったのは。

 まず、教科書がないこと。テーマが決まっていて、そのテーマに則していればどの教科書を使ってどんな授業をしてもいいのです。それだけ教師の技量が問われるということですね。実際、次の学年の教師があまり期待できないからと、保護者が学校を換えることもあるんです。ある教師は契約が6年間も延長されたのに、ある教師は1年間だけという光景も目にしました。
 職員朝礼やクラブ活動、土・日出勤もありません。勤務時間がかっちりしているので教師は授業に集中できます。でも先にも言ったように、日本のような年功序列制ではなく契約制なので、教師自身の実力が問われるため、仕事を終えて他のコースを取ったり、もっと深めるために大学で学んでいる人がたくさんいます。教師が向上心を失ったら終わりじゃないかと思うんです。オーストラリアには個性のある学校がたくさんあるので、教師も「今度はこんなことを教えられる学校に行きたい」と、向上心を持って取り組んでいます。
 また、休みを取りやすいのもいいですね。前もって届けをしておけば、教育委員会からその日だけ代わりの教師が来てくれるので、他の教師に気兼ねなく休むことができるんです。3年間1度も休むことなく勤務した場合は、1月半も休みがとれる制度もあるんですよ。実際、私がオーストラリアにいる間に、この1月半もの長期休暇がとれるラッキーな先生に会いました。でも彼は、「僕はもっと働きたいんだぁ」なんて言ってましたけど。こんな感じでみんな厳しさの中でも、ゆったりと働いているんです。

オーストラリアに行って感じたことは。

 何よりも年齢が意識されないのがうれしかったです。チャンスも多いので、いくつになってもチャレンジすることができるんです。実力主義なので厳しい面もありますが、私は「生きていきやすい」と感じました。また、オーストラリアは何でもやってみないとわからない国なので、「あきらめない」ということも学びました。

日本の教育現場で活かせる提案等があれば、教えて下さい。

 まず、ALTについてですが、若者だけなく、実際にあちらの学校で日本語などを教えている教師を募集する枠を設けてはどうでしょうか。オーストラリアで日本語を教えている教師で、日本に来たがっている人はかなりいます。英語などを教えながら、日本の文化、習慣、教育、言葉を学んで帰ってもらい、それをあちらの現場で活かしてもらうのです。これは日本の教師にとっても、大きな情報交換、また刺激になってゆくはずです。互いの国の相互理解ももっと深まってゆくのではないでしょうか。
 もう一つは、何年間以上教師として現場に立っていた者であるならば、2年以内くらいで本人の希望する地に赴いて、勉強できる自由を与える枠組みをもうけてはどうか、ということです。その間の給料やその他一切はつかなくて、本人の責任のもとに行います。そうすれば、現場に立って教えてみたいという教師希望の若い方々にも、その機会がもっと与えられるのではないでしょうか。

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