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Winter No.24

昆明からラオスへの道

亀井 奈津子

 私たちの寝台バスは雲南省の山中を駆けていく。というよりよじ登っていた。エンジン音が大きい割りにスピードが出ていない。どうやら旅客の荷物が重すぎるらしい。それもそのはず、私と同行している留学仲間のラオス人も土産にテレビを積み込んでいる。
 私は中国雲南省に留学していて、今回は大学の夏休みを利用しての念願のラオス行きだ。バスが南下するにつれて、気温も徐々に上昇していく。ほどなくバスの中は、汗と、度数50度以上の中国酒・白酒と、食べ物が混ざったような異様な臭いが充満しはじめていた。その臭いに辟易していると、足に何やら冷たいものが吹き付けられた。起き上がって見ると、運転手の一人が室内消臭スプレーを旅客全員の足に吹き付けているではないか。が、誰一人文句を言う人もなく、無反応もしくは笑って済ませている…。
 途中、生まれて初めて雲海を目にした。神秘的だが、南国の景色とは妙にミスマッチだ。車窓から見えるバナナの木がだんだん多くなっていく。無事、モンラーという町に到着した頃には、時計の針は夜の11時を回っていた。雲南省省都・昆明を出発していつの間にか36時間が経っていたのだ。顔を手で拭うと、手が土埃で黒ずんでいた。疲れているはずなのに、明日いよいよラオス入りだと思うと久々のホテルの平らなベッドでもなかなか寝付けない。
 翌朝、タクシーを借り切り、中国側国境の町モーハンへ急ぐ。モーハンではすでに友人の家族が私たちを迎えに来てくれているのだ。中国側イミグレーションで出国手続きと両替を済ませ、徒歩で国境を渡った。国が変わったとは思えないほど何もない山中である。そこから友人の家族の運転する車で10分ほど走ると、ラオス側イミグレーションが見えた。
 ラオスに入っても車窓の景色は何ら代り映えしない。が、一つ大きく変わったところがあった。途中入ったトイレが中国とは比べものにならないほど清潔だったのだ!ラオスのトイレは鼻につくアンモニア臭もなく、中国のように便器に排泄物がこんもり、という事もない。こんな些細な変化も妙に感動的である。
 ラオス側国境の町ボーテンから山道を走ること5時間、夕刻ラオスの北の町ウドンサイに到着。途中小数民族の村をいくつか通り抜ける。絵葉書でしか見たことのなかったラオスが今は私の目前に広がっている。そう思うと感激で心の中がいっぱいになった。
 次の日、ドライブに誘われ友人のバイクの後ろにまたがっていると、なぜか飛行場の滑走路に着いた。そこには15分後にビエンチャンからの飛行機が着陸するというにもかかわらず、彼女は悠々と滑走路ドライブを楽しんでいる。一方、後ろにいる私は、時計と空から目が離せなかった…。
 ラオス3日目にはラオス仏教の中心地ルアンプラパンへ。寺院めぐりの合間に青空の下で頬ばる手作りのココナッツアイスクリームは素朴で忘れられない味だ。
 5日目ビエンチャンへ出発だが、移動手段は飛行機かバスのみ。1996年当時ラオス山岳部では武装集団による外国人襲撃事件が散発しており、ビエンチャンからルアンプラパン間が最も危険だといわれていたからだ。私たちは飛行機を選んだが、搭乗してすぐこの選択を心底後悔した。
 私たちが乗った定員40名ほどの小さな飛行機は、離陸前、片翼のプロペラの回転がおもちゃのゴム式プロペラよりもお粗末だった。「これは機体を交換するだろう」という私たちの期待も空しく、飛行機はプロペラを何度か回したかと思うと、次の瞬間、まるで何事もなかったかのようにいきなり飛び立ってしまった。しかも、離陸後まもなく最前列の頭上から、水蒸気が勢いよく噴出しているではないか!乗客は皆、不安を隠せない様子で黙り込んでいる。私も恐怖のためか、スチュワーデスの差し出すコーラの味が全くわからない。
 耐え抜くこと45分、何とか無事ビエンチャンに着陸。降りたばかりの夕日に染まった飛行機は、私の目にとてもたくましく映った。
 ビエンチャンでお世話になる友人宅は、メコン川沿いにあった。対岸はタイ国境の町ノンカイだろう。オレンジ色に染まるメコン河岸で夕涼みしながらココナッツジュースで喉を潤す。友人は「ココナッツジュースを飲むと帰ったことを実感する」とご満悦だ。私も無事、ビエンチャンに着けたことを神様に感謝した。
 ビエンチャンに2日間滞在した後、友人に暇乞いをして、私は車で15分離れたメコン川友好橋を渡りタイへ向かった。
 7日間という短い日程中、私は目にするもの、口にするもの全てにおいてラオスに魅了されっぱなしだった。ラオス人は大らかで穏和でシャイだ。そして友人家族から市場の人々まで、みんなが私たちにとびきりステキな笑顔を見せてくれた。ラオスはあまりに何もないので退屈だという人もいるが、日本のように物質的に恵まれてはいなくても、私たち旅行者を暖かくもてなしてくれるラオス人の心が、私はこの国の魅力であり財産だと思う。あの魅惑的な笑顔に会いに、それとアイスクリームとタピオカのために?何度でも訪ねて行きたい。

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